ヒューマンエラー防止対策はいろいろ考えられていますが下表のようにまとめられます。ここにあげたヒューマンエラー防止対策は機械や設備、組織的な仕組みなどを最初におこなうことが大前提です。
ヒューマンエラーの防止の難しさは、
ことにあります。したがって発生するヒューマンエラーを人間が検出して修正することには自ら限度があります。これは人間の特性そのものだからです。
No. | 防止策 |
1 | 意識を強化し開発する |
2 | 研修、教育訓練 |
3 | 標準化の促進、習慣づけ |
4 | 標準化の促進、習慣づけ |
5 | 標準化の促進、習慣づけ |
6 | 冗長化 |
7 | 人間工学的配慮 |
8 | 作業改善 |
9 | マニュアル類の改良・補完 |
ヒューマンエラーの防止の難しさは、
- 発生頻度の低さ(発生確率は1万回に1回から10万回に1回)と、
- 人間の意識レベルが良好であれば信頼性も良好であるが、
- 信頼性の高い水準は短時間(15分から30分程度)しか続かない、
(1)ぽかよけ(エラープルーフ)
人間を変える事が出来ないのなら、人間以外の、
を工夫することで,エラーおよびそれに起因する種々のトラブルを防止することをおこないます。これをフールプルーフといいます。フールプルーフをポカヨケ、バカよけということもあり、"バカ"という言葉を回避してエラープルーフということもあります。ここではエラープルーフとしますがフールプルーフと同じものです。
エラーを起こさないために最も有効な手段は、その作業をせずに済ませることです。「その作業を行わない」(排除という)あるいは「別な方法でその作業の目的を達成する」(代替え化)ことが出来ない場合には「その作業をやりやすくしてエラーの発生を無くす(大幅に減少させる)」(容易化)ことがおこないます。やむなく人が作業を行うならその作業にエラーがなかったかチェック(異常検出)します。チェックで異常が見つかれば次の工程の前にやり直せます。チェックで異常が見つからず、次工程あるいは出荷されお客様に渡された後にエラーがあった場合には、そのエラーの影響が少なくなる(影響緩和)ように配慮します。
- 作業の対象となる物の形状・色、
- 作業で使用する設備、
- 作業指示票の様式、
- 作業の手順などの作業方法(作業を構成する人以外の要素)
エラーを起こさないために最も有効な手段は、その作業をせずに済ませることです。「その作業を行わない」(排除という)あるいは「別な方法でその作業の目的を達成する」(代替え化)ことが出来ない場合には「その作業をやりやすくしてエラーの発生を無くす(大幅に減少させる)」(容易化)ことがおこないます。やむなく人が作業を行うならその作業にエラーがなかったかチェック(異常検出)します。チェックで異常が見つかれば次の工程の前にやり直せます。チェックで異常が見つからず、次工程あるいは出荷されお客様に渡された後にエラーがあった場合には、そのエラーの影響が少なくなる(影響緩和)ように配慮します。
原理 |
排除 |
代替え化 |
容易化 |
異常検出 |
影響緩和 |
(2)視覚シグナル
人の見やすい視野は、水平面から下方30度、正面の50度の範囲と言われています。(下図)
目で見るものを視覚シグナルといいますが、明るさ、色、コントラストに十分配慮してどのような照明環境でも見やすいものでなければなりません。表示灯の色、押しボタンスイッチの色は、国際安全規格(JIS規格)に沿ったものを採用し、作業者に混乱を与えないようにしなければなりません。この色彩のことをカラーコーディングといいます。また手動操作器(押しボタン、セレクタなど)に使用する図記号も分かり易い国際安全規格(JIS規格)に沿ったものとし必要に応じて分かり易い銘板をつけます。
現場には警告標識、注意標識などたくさん貼られていますが、本当に必要な箇所に必要なものだけが貼られていることが重要です。不要な標識が幾つもあると本当に必要な標識を見逃します。これを標識汚染といい、ヒューマンエラーを発生させる要因になります。
現場には警告標識、注意標識などたくさん貼られていますが、本当に必要な箇所に必要なものだけが貼られていることが重要です。不要な標識が幾つもあると本当に必要な標識を見逃します。これを標識汚染といい、ヒューマンエラーを発生させる要因になります。
(3)聴覚シグナル
先に述べた視覚シグナルは視野に入っていることがシグナルを伝えるために必要ですが、聴覚シグナルは音が聞こえる範囲であれば作業者に伝えることが出来ます。ただし伝えることの出来る情報の量は音の高低、断続、音色など人が認識できるものに制約があって少ないため聴覚シグナルで注意を引いた後に視覚的な手段で情報を伝達することが行われます。
(4)触覚シグナル
先に述べた視覚シグナルは視野に入っていることがシグナルを伝えるために必要ですが、聴覚シグナルは音が聞こえる範囲であれば作業者に伝えることが出来ます。ただし伝えることの出来る情報の量は音の高低、断続、音色など人が認識できるものに制約があって少ないため聴覚シグナルで注意を引いた後に視覚的な手段で情報を伝達することが行われます。
(5)いろいろな工夫
アクチュエータの操作方向と操作量の増減の方向には基本的な取り決めがあります。非常停止押しボタンは手のひらでたたけるようにマッシュルーム型のヘッドで赤色、周囲は黄色と統一されています。両手押しボタンやイネーブラーもヒューマンエラーが起きないように特別な機能を持っています。操作卓のレイアウトにもいろいろの工夫がされます。これらは設計者と使用者の協調が必要なことがらです。
(6)人間特性の活用
ヒューマンエラーは人間が深く関わるものですから人の特性を利用してヒューマンエラーを防止することをおこないます。
1)指差呼称
指差呼称は旧国鉄から始まったものですが今では産業界で広く行われています。指差呼称の効果は、
- 指で差すことでそこに注意を焦点化出来ます。注意を焦点化すればぼんやりしていたものが見えることも期待出来ます。
- 行為を意識化することが出来ます。習慣的な行為、とりわけ事故に直結しそうな行為、は必ず指差確認しましょう。
- 行為を口に出すことで記憶に結びつきます。行ったかどうか心配になることが少なくなります。
- 特に意識することなく自動的に流れやすい熟練した行為であっても、知覚(作業のきっかけの入力)と行為(反応)の間に、指で差し、口に出すという全く別な動作が入るので、焦りに似た緊張と習慣的動作のスピードダウンを採ることが出来ます。達人は間合いの取り方というか一呼吸を間に置くことが出来る人です。
- 指差呼称をすると周囲の人と情報共有することが出来ます。周囲の仲間に自分の行為を目に見える形、音声として聞こえる形で示せる利点があります。これは、組織の安全風土の醸成に役立ちます。
2)なぜなぜ問答をする、
3)疑問はすぐ尋ねる習慣を身につける
4)手順書と基本ルールを守る
5)コミュニケーションを徹底する
6)危険予知トレーニング(KYT)をおこなう
(7)規則違反と対策
ヒューマンエラーを「行動した」・「行動しなかった」と「意図的におこなった」・「特に意識することなくやっていた」に区分すると考えやすい事を説明しました。「特に意識することなく」に区分される「やり間違い」と「やり忘れ」のヒューマンエラーは見聞きしたものをどのように情報処理してゆくかと置き換えて考えることができますので、ヒューマンエラーは個人との関連で理解することができました。したがってヒューマンエラーの予防は、知識、情報提示などの改善によっておこなうことが通常です。
これに対して、「意図的におこなった」違反は、なぜそのようなことをしたかという動機付けの問題から考えます。
これに対して、「意図的におこなった」違反は、なぜそのようなことをしたかという動機付けの問題から考えます。
1) ルールを知らない
作業者がルールを知らなければ、守るべきルールが存在しないのと同じです。もし作業者がルールを知らなかったとすれば、教育をしなかった管理者の責任でしょう。しかしルールの中には、異常時対応のルールなど滅多に使用しないものありますので、ルールを思い出せない、ルールがあること自体を思い出せない場合もあるでしょう。人はすべてのルールを暗記することはたいへん困難でしょうから、チェックリストを整備したり、異常時対応マニュアルを工夫したり、定期的なトレーニングをおこなうなどの工夫が必要になります。
2) ルールを理解していない
ルールは知っていても、なぜそうしてはならないのかの理由を理解していない場合は、ルール違反に対する心理的ブレーキがかかりにくいものです。作業手順書の安全に関わる規則に従うことは、手間がかかったり、遠回りになったり、コストがかかったりします。作業効率を上げるための改善活動作業、小集団活動などで安易に作業手順の変更を行うと、事故を起こさないための手順が存在する理由が忘れられたり、撤廃されたりする傾向があります。そこで事故が発生して作業手順書に安全手順を追加するときには、どのようにするか(ノーハウ)だけではなく、なぜこの手順が必要であるか(ノーホワイ)を記述するなど、事故の経験を風化させず、効率化のための小さな改善が貴重な苦い経験から造り上げた安全システムを無力化しないように配慮をしなければなりません。
3) ルールに納得していない
ルールの必要性は表面的に理解していても、そのルールの必要性に納得していない人は違反をおかしやすいものです。厳しすぎるのでは・・・、それほど手間をかけなくてもよいのでは・・・と考えている人が多ければ自ずと違反者も出ます。こうした違反はやるべき事を意識的にしなかったという作業を省略する形で表れます。例えば、項目の多いチェックリスト、作業につづいて別のひとが検査しさらに確認するトリプルチェック体勢などです。
4) ルールを守らない人がいる
ルール違反者がすこしでも存在していますと、自分も守らなくてもよいのではないかと考えます。職場の同僚、とりわけ上司が違反しているのをみると、自分だけが守るのが馬鹿らしくなります。ルールの目的を十分理解せず、ルールが面倒であるという気持ちを持っている場合、他人の違反に同調する行動をとりやすくなります。自動車が来ない横断歩道に赤信号で止まっている大勢の歩行者のうち、一人が信号を無視して横断し始めると、何人かが渡り始める現象はよくあることです。「赤信号、みんなで渡れば怖くない」は産業の現場に通用させてはなりません。
5) ルールに違反してもいままで事故が無かった
いままで何度もルール違反をしてきたが、事故も起きず、会社からも叱られず、新人からは半ば驚きの目で見られるような誤った成功体験がある場合にはルール違反は無くなりませんし、かえって蔓延する恐れさえあります。
6) ルールに違反しても罰せられない
作業規則違反や職場のマナーを管理者が黙認していると,その違反は職場に蔓延していきます。守るべきルールやマナーはある程度の強制力を持って守らせなければなりません。
(8)組織事故
ここまでその事故の影響が個人のレベルで収まる個人事故にかかわるヒューマンエラーについて述べてきました。その事故の影響が組織全体に及ぶような事故を組織事故といいます。
組織事故では一般に複数の原因が存在します。その場合には事故に直接関係のない人達にも関係があります。個人のエラーが事故の直接のきっかけであったとしても、水面下には多くのエラー、それを組織エラーと呼びましょう、があります。そのイメージ図を次に示します。
組織事故では一般に複数の原因が存在します。その場合には事故に直接関係のない人達にも関係があります。個人のエラーが事故の直接のきっかけであったとしても、水面下には多くのエラー、それを組織エラーと呼びましょう、があります。そのイメージ図を次に示します。
水面上のエラーは事故の原因として表面化されやすい(即発性エラーといいます)のですが、水面下にある「組織のエラー」はいつまでも隠れたままであり(潜在的原因といいます)なかなか是正もされません。潜在的原因となる組織のエラーが表面に表れるのはかなり重大な事故のときなのでその被害はとても大きくなりやすいです。事故の発生原因を穴のあいたチーズ(スイスチーズ)に例えたのがリースンJのスイスチーズモデルです。
大きな事故になるのはスイスチーズの穴が重なり合ったときです。それぞれの防護層を深くして種々の監視的手段で防護層の穴(すなわち欠陥)を絶えず抽出して是正することが安全にとってとても大切なことなのです。
(9)終わりに
ヒューマンエラーとは何だろう、ヒューマンエラーを防止するにはどのような方法があるのだろうか、というような日常的な疑問に対して簡単に説明しました。
職場の皆さん、安全衛生スタッフ、安全衛生の指導者の方々にすこしでもヒューマンエラーのことをお分かりいただけたならば幸いです。
職場の皆さん、安全衛生スタッフ、安全衛生の指導者の方々にすこしでもヒューマンエラーのことをお分かりいただけたならば幸いです。