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 事故調査報告書 機械式立体駐車場(二段・多段方式、エレベーター方式)で発生した事故

 

機械式立体駐車場報告書表紙.jpg
消費者安全調査委員会
森山哲(専門委員)
消費者安全法第23条第1項に基づく
事故等原因調査報告書
機械式立体駐車場(二段・多段方式、エレベータ方式)で発生した事故
内閣府
2014年7月18日

報告書は、消費者庁のホームページからダウンロード出来ます。

本文のPDFデータは: 6_houkoku_honbun.pdf

機械式駐車装置(以下「駐車装置」という。)の設置実績は、平成25年3月末時点で累計約54万基3)に上り、機械式立体駐車場における利用者等の死亡・重傷事故は、平成19年度以降少なくとも26件(うち死亡事故は10件)発生している。
このような実態を踏まえ、調査委員会は、事故原因の究明と再発防止が必要であると判断し、駐車装置内で発生した人や車の挟まれ事故等、6件について調査を行った。

<原因>
調査を行った機械式立体駐車場の事故に共通した原因として、マンション等の日常の生活空間における実際の利用環境や人の行動特性が、設計段階で十分に考慮されてこなかったため、人と機械の動きを隔離する機能、緊急時に装置を停止できる機能など、駐車装置が有するリスクを低減させる安全策が十分でなかったことが挙げられる。
上記リスク低減の取組が遅れた背景的要因の1つとして、製造者等において、事故が発生しても利用者の不注意や誤使用が原因とされてきたことがあると考えられる。
調査した6件の事故事例から、事故等原因について抽出した具体的な問題点を次に示す。
1.設計時の想定と実際の利用環境の相違
昭和 60 年代以降にマンション等の消費者の日常生活空間においても駐車装置が急速に普及したことに伴い、利用者が直接駐車装置を操作するようになった。
マンション等に設置された駐車装置を操作する利用者は、駐車装置の構造や危険性を十分に知る機会が与えられないままに、利用者自らが、駐車装置内の無人確認、機械操作、車の入出庫、同伴者の安全確保を行うこととなっている。
また、駐車装置は運転者以外の者が駐車装置内に立ち入らないことを前提として設計されているが、実際の利用環境では、幼児を連れて利用する場合に駐車装置内に幼児も入れざるを得ないなど、設計時の想定と実際の利用環境が大きく異なっていることが明らかとなった。

2.人の行動特性への考慮不足(安全確保に対する利用者への過度の依存)
駐車場の掲示や取扱説明書が示している操作手順と、実際の利用者の操作との間に齟齬
そ ごがあった。この齟齬そ ごの背後には、設計時の想定と実際の利用環境の相違や、視認性の悪さ、自由に動き回る幼児の特性、表示内容の不明確さなどにより、利用者にとって製造者の想定どおりの操作が困難である状況や、想定とは異なる操作を誘発する状況があった。
このように、駐車装置は、実際の利用環境や人の行動特性が考慮されておらず、安全確認を利用者に過度に依存するものであったと考えられる。
3.安全対策の取組の遅れ
機械設備の安全性について、広く活用されている「3ステップメソッド」と呼ばれる考え方(53、54ページに詳説)に従って、事故事例を分析すると、
①駐車装置内の視認性、制御方式、停止機能などの本質的安全設計方策
②隔離と停止による安全などの安全防護と非常停止などの付加保護方策
③使用上の情報(利用方法、駐車装置に潜むリスク、緊急時の具体的な対
処方法等についての利用者への情報提供)等において、安全対策の取組の遅れがあった。

<意見>
駐車装置は、実際の日常生活において、幼児を連れて多くの荷物を車で運んでいるなど、利用者に様々な状況で使用されている。しかし、現在稼動している駐車装置は、装置内に運転者以外の者が立ち入らないことを前提に設計されている。このような設計は、日常生活空間における実際の利用環境や人の行動特性を十分に考慮したとはいい難いものであり、その結果として、駐車装置の利用には、多くの重大なリスクが伴うこととなっている。駐車装置の安全確保に関しては、駐車装置のリスクを最もよく知る製造者が、装置自体のリスク低減を図るとともに、利用者等に対してリスクや使用方法について周知する等、主体的な役割を果たすべきである。
他方で、事故の発生を防止するためには、実際に駐車装置を操作する利用者自らもリスクを認識し利用することが重要である。
上記を踏まえ、国土交通省及び消費者庁は、機械式立体駐車場の安全性を高めるための施策を進めるに当たり、特に次の点について取り組むべきである。

1.国土交通大臣への意見
(1)制度面等の見直し
①現在、国土交通省において検討が進められている、安全性審査に係る駐車場法施行令(昭和32年政令第340号)第15条の規定による大臣認定制度(以下「大臣認定制度」という。)の見直しに当たっては、過去に大臣認定又は公益社団法人立体駐車場工業会(以下「工業会」という。)の認定を受けた型式の駐車装置であっても、新たに設置する場合には、改正後の大臣認定制度における安全基準に基づき、必要な設計変更等を行った上で、改めて認定を受けることとするなど、利用者の安全に十分に配慮した制度とすること。
②工業会に対して、「機械式駐車場技術基準」(工業会発行)(以下「技術基準」という。)の全面的な見直しを行う際、実際の利用環境や人の行動特性も考慮したリスクの分析、評価など十分なリスクアセスメントを行い、平成26年度中に改定するよう促すこと。また、製造者に対しても、上記技術基準の見直しに併せて、各社の設計基準の整備、見直しを促すこと。
③駐車装置の安全性に関する基準について、国際的な機械安全4)の考え方に基づき質的向上を図り、業界全体に適用させるため、JIS規格化について早急に検討を進めること。
④駐車場法(昭和32年法律第106号)は、駐車面積が500㎡以上の一般公共の用に供する駐車場のみに政令で定める技術的基準への適合を求めているため、マンション居住者用の駐車場等に設置されている駐車装置には適用されない。これらの駐車装置についても、その安全性を確保するた
めの法的な整備の検討を早急に進めること。
⑤製造者から利用者への安全に関する情報提供を確実にするための仕組みの検討を早急に行うこと。
上記③、④及び⑤については、平成26年度中に検討結果を明らかにすること。
(2)既存の設備への対応
工業会によるリスクアセスメントの結果判明した、重大な事故につながる高いリスクについては、本調査報告書にある再発防止策等を参考に、目標年限を区切る等して既存駐車装置の改善を促進するための施策を講ずること。
また、後述の2.(1)に記載のある関係者間の連携による安全対策の検討・実施を促すこと。

(3)事故情報収集及び公開の仕組みの構築
駐車装置で発生した事故情報の継続的な収集・分析を行い、その結果を適切に公開するとともに、「機械式立体駐車場の安全対策に関するガイドライン」(平成26年3月、国土交通省)(以下「安全対策ガイドライン」という。)及び技術基準の見直し、製造者への情報のフィードバックを行うなど、事故
の再発防止及び駐車装置の安全性の向上を図るための仕組みを構築すること。
2.国土交通大臣及び消費者庁長官への意見
(1)安全対策の検討・実施の推進
駐車装置は一度事故が起きれば重大な被害の発生につながること及び長期にわたって使用されることを踏まえ、目標年限を区切る等して、製造者、保守点検事業者、所有者・管理者(マンション管理組合を含む。)、利用者に対して、協議の場を設置し、連携した安全対策の検討・実施を促すこと。
(2)安全利用の推進製造者、設置者及び所有者・管理者に対して、駐車装置の安全な使用方法、緊急時の具体的な対処方法等について、利用者に向けた説明の徹底を促すこと。また、製造者及び保守点検事業者等に対して、所有者・管理者と協力して利用者に向けた教育訓練の実施を促すとともに、利用者に対して参加を促すこと。
(3)注意喚起の実施
具体的な事故事例等を基にするなど、駐車装置が有する危険性及び駐車装置を利用するに当たっての注意点を取りまとめ、利用者に対して継続的な注意喚起を実施すること。

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