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安全工学

安全工学

 未知による失敗事例 Tacoma, Liberty, Comet

多くの事故が発生してきたが、技術的に未経験な分野で発生した事例も多い。どの代表的でかつスケールも大きい3事例を紹介する。

(1) タコマ・ナロウズ吊り橋 Tacoma Narrows Bridge
  長大橋の多くは吊り橋の構造で建設される。吊り橋は古代から建設されている。明石大橋が世界最長のものである。吊り橋の事故の歴史を調べてみると、隊列を組んで軍隊が行進して橋が共振して落下した事故、風による静圧(設計段階での風荷重)による事故を経て、1940年7月、米国ワシントン州に完成したTacoma Narrows Bridgeが19m/sの風による激しいねじれ振動(風の動的作用)により崩落した事故がある。この橋の設計には、静的荷重は十分考慮されていたが、設計時(第2次世界大戦の前)には動的振動がほとんど解明されていなかった。
 この事故は振動工学や土木工学を学ぶ人たちには教材としても紹介されているので
長大橋の設計に貴重な失敗の経験を提供した。橋の崩落は16mmフィルムに撮影され、現在はビデオテープで購入可能である。8分間の短いものであるが、カラーで撮影され誠に興味深いものである。価値ある$55である。
http://www.camerashoptacoma.com/default.asp

(2) リバティ船 Liberty ship
 第2次世界大戦初期に戦略物資輸送船として米国が大量に建造した全溶接構造の戦時標準船である。その頃の船は鉄板を鋲打ちで建造していたが、戦時下にあって大量に輸送船を建造するため標準化を進め、全溶接で建造した。1942~46年にかけて、約5000隻が建造された。
 しかし、溶接部のひび割れ、破断などが相次ぎ1200隻が破壊、うち230隻沈没するという事故が発生した。溶接部の低温脆性(ていおんぜいせい)が原因である。
リバティ船の情報は、Liberty shipで検索すると良い。リバティ船のイメージを下図に示す。
 


引用元は http://www.cascobay.com/history/libship/libship.htm#ship
である。
 

 

(3) コメット旅客機 De Havilland Comet
 コメット機は1952年に就航した英国製の4発ジェット旅客機である。乗客数37名の現在から見るとコンパクトであるが、いまから見ても美しい機体である。その写真は:
 


引用元は http://user.itl.net/~colonial/comet/

 1954年以降事故多発し運行が中止された。原因は、金属の残留応力である。航空を飛行するジェット旅客機であるので機体を与圧しているが離着陸のストレスが残留応力となり機体を破壊した。コメット機の耐圧試験では30年の運行に耐えるはずであったが、2年程度のフライトで亀裂が発生し墜落した。その理由は、耐圧試験の方法にあった。運行前の試験では、内圧試験(0.56気圧)1000回に1回の割合で耐圧試験(内圧の2倍の1.12気圧)を行ったところ亀裂発生は18,000回(2回離着陸/日、300日運用/年として30年の寿命)であった。しかし実際の運用に近い耐圧を0.75気圧、内圧を0.56気圧として耐圧試験をすると3,030回で亀裂が入った。これは加速した試験のつもりが材料を延命したことになった事例である。
 


引用 続々・実際の設計 畑村洋太郎編著 日刊工業新聞社
 この経緯はこの本をお読みになることを薦める。

 上記の3事例は、それまで知見が無かった領域の事故事例である。設計者は過去の失敗事例を繰り返してはならないのであるが、このような場合には設計者は免責されて良いのではないかと執筆者は考える。